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母の詠草


by hahanamiko

カテゴリ:美知思波( 76 )

三十七年 六月

かかるきびしき生活の中に歌ありて道路工夫の君逝き給う

いと貧しき家にして人情のこまやかなる葬りの席に吾等連なる

盲目なる夫が逝きて残されし半身不随の妻とその子等

この家の長男のぬし山国屋の世話ゆき届き

仏壇に香ゆらぎいて片側にマリヤの御像祀られており

親戚の人々それぞれに不自由の人を労わり力づけをり



母の日を祝ひし手紙智子より届きぬそこばくの金入れありて
by hahanamiko | 2016-11-03 21:46 | 美知思波

三十七年 五月

桂川にそひし岩山岩の間に紫つつじ今さかりなり

午前九時御苑に人のまばらにて咲き極まれり八重桜花

鯉一尾はねて広がる波紋あり御苑の池の真中どころ



孫を守ることに足りつつ日曜に一日を過ごす夫と吾と

トラックに裾よごされて駅に行くバスハイヤーの動かぬ朝を

私鉄ストの余波受けて列車延着と拡声器ひびく駅構内



卒業記念の写真ようやく届きたり大人びて良く撮れたり智子

紅に芽吹く楓に重なりて満天星の翠色増して見ゆ
by hahanamiko | 2016-11-03 21:29 | 美知思波

三十七年 四月

吾が体置どころなし五十人一つの室にまろび伏しゐて

明けきらぬ元町港の桟橋に深々と息吸ひて侘ちたり

カンガルーも鹿ものどかにまろびゐて猿山の猿忙しく動く

若草の萌ゆる時こそ偲ばれれ大室山はまろき芝山

巨大なるに驚き可憐なるを愛で声あげて廻るサボテンセンター




紅梅のつぼみに光る露ありて雨やわらかしあしたの庭に

小さき穴あればそこより指を入れ障子を破ることも覚えき

朝夕に水まきて心和むなりガーベラも百合も芽立ちてゐるに
by hahanamiko | 2016-11-03 21:12 | 美知思波

三十七年 三月

笹子路は雪におほはれゐたりけり芽吹きの色にけぶりながらに

デパート幾つ上り下りして三時間大丸に買ふ木目込みの雛

一万円五万円五十万円かぎりなし雛にも懐ふ人間の段階

洋子にも和子にも似てふくよかなる雛なりこれと決めたる理由

灯をすいて真紅に光るひとところ噴き散る水をあやしくみせて

白きカバー清々とせる座布団に茶がうまかりき浦和母子センター

一枚のハンカチを売り足袋を売り母子会が建てしセンターなりと

母の日のカーネーションの花造る手さばきを見る階下作業場

枯草のなびく広原はるかなり此処は習志野演習場跡地

一毛作の湿田つづき藁ぶきの屋根多き村遠くに見ゆる

波立てて肩を越えゆくいで湯にも入りてみるなり眼つぶりて

冷々と素足に歩む朝早きヘルスセンター熱海館を

一握りの香投げ入れて成田山本堂に合掌す思ふことなく

壱千円永代供養と書かれたる碑が並びゐき本堂裏に

足袋裏を土によごして本堂をまわりてゐたり女二人が
by hahanamiko | 2015-07-12 21:28 | 美知思波

三十七年 二月

奔放にふるまふ若き等と居りて時にたじろぐ我の心が

ベビーサークルつたわり歩く英幸の足つきとみにたしかになりぬ

石の間におもとの紅実のぞきいる雪かかむとて出でてる庭の

物干しの雪掃き下ろしむつき干す正月二日の吾が初仕事

晴れ着きて智子順子が並びたり帯が苦しいと笑ひ合いつつ

湯上りに真紅のガウン召し給うギブソン夫人若々として

抱きやれば機嫌よく笑ふ孫和子堅きコルセットに脚開かれて

編みおきしピンクの上着きせやらむ今日帰りゆく孫の和子に

ひと色に装ひし乙女あふれたり成人式会場県民会館

純潔の貴さを説きし知事の祝辞うかちし言に笑も沸かせて

腹を裂きわたをぬきてもまな板になほ跳ねてをり源五郎鮒

串にさし火に焙りたる三度にていよいよ今日は甘露煮にせむ

隣家より賜びたる源五郎ぶな三尾鍋に余れりその尾と頭
by hahanamiko | 2014-12-06 21:27 | 美知思波

昭和三十七年 一月

もろこしと柿と乾されてゐたりけり山ふところの農家の軒に

外堀の一部は蓮の田になりて枯葉が浮かぶさひたる水に

ちょうなあと黒く光れる太柱我の目につく天守閣一階二階

這い上る敵を落さむしかけとぞ堀にそひたる石おとし穴

諏訪の湖の岸に寄りたるあくたあり浮かびて動くゴムまりふたつ

千代田湖に釣りし若さぎ賑やかに揚げてゐるなり若き夫婦が

浅利汁呑みつくしたる鍋底に白く小さき蟹の残れる

背の君にそひてつつましく侘ち給う花束受くる露木夫人が
by hahanamiko | 2014-12-06 21:03 | 美知思波
目覚むれば早信濃路ぞ窓ちかくつづく林にうす明かりして

見はるかす稲田はすでに刈り終えて稲架つらなる佐久の平に

梓川の瀬音に覚めて仰ぎみる山は明るく雨上がりなり

ぬかるみに足をとらるるをおそれつつ熊笹の根にすがりて歩く

岩山の岩にしたたる水ありて杉苔は茂る深きみどりに

一握りの杉苔を紙に包むなり三寸ほどの楓もそへて

藍深き色にしづもりきりたてる山をうつせり明神池に

昨日降りし雪にかがやく奥穂高明神岳の上に見えをり

焼岳の噴火に生まれたりと云う大正池はひろらに浅し
by hahanamiko | 2013-01-16 19:30 | 美知思波
関東一の大伽藍とぞ九分どおり改築成れる善光寺本堂

赤銅の屋根よし丹塗りの柱よし七十五尺の高き棟よし

大仏はやはり美男に在すなり善光寺本堂ま東にして

十万坪に堂塔伽藍ならびたる其のかみのこと想ひみるなり

鎌倉時代の刀きずあり槍きずあり薬師堂四隅の丸き柱に

金色に耀き在す薬師如来その顔拝すせまき御堂に

泉石に昔ながらに容良き松も残れり草生のなかに

見かへれば夕陽をあびておごそかなりここより見ゆる善光寺本堂
by hahanamiko | 2013-01-16 19:12 | 美知思波

昭和三十六年 十月号

二階のひさしにいくつもの蜂の巣がありて風除けするにもてあますなり

ガーベラの紅あざやかに見ゆるなり待ちわびし雨ひと夜を降りて

アルバイト学生と云ふが今日も来てまた買わされきゴムのテープを

バケツにて川より運ぶ幾十杯つつじもガーベラも息づきて見ゆ

下駄ぬげばこころよきかな吾が撒きし水足裏にひえびえとして

智子と二人英語に話すかたわらに手持ち無沙汰に吾は茶をくむ

四肢張りて泣きし力の抜けしとき英幸の頭うでに重たし

二ヶ月を吾家に肥えし和子なり駅までをせめて吾が抱きゆかむ

智子就職決定の報届きたり台風予報しきりなるとき

学びたること生かさむときほひたる汝が願の今ぞかなひし

釘打つがしきりに聞こゆ台風のすでにつのれる雨の最中に

四針縫ふ其のひと時をつきてゐて愛子も吾も貧血おこす
by hahanamiko | 2013-01-16 19:00 | 美知思波

昭和三十六年 九月号

小淵沢より歩きたる十五分ほこりかむれる草の道なり

酒もジュースも池に沈めて口すすぎ手を洗ひたり滝の清水に

拝殿に吾等並びて紅ますのゆわれ聞くなり農組合長に

置物かと思ひたりけり神殿の前に動かぬ蟇が一匹

胸にズボンに尿されつつ笑ふなり蟇をとらへて抱き来し人が

たしかなる手ごたえありて釣上げし紅鱒が芝の上に跳ねゐる

あらき歯をおそれ乍ら針をとる一尺ほどの肥えし紅鱒

孫二人にあせもを出さぬがそのことが夫と吾れとの仕事のひとつ

和田山のキャンプの一夜明けし時君が夫君の訃報とどきぬ

二十人があわただしくも下山する露のままなる百合を束ねて
by hahanamiko | 2013-01-16 18:34 | 美知思波