母の詠草


by hahanamiko

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昭和三十六年 四月号

折々に波におどるは何魚ぞ吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風たつと見し間に

頭にのせて物を運べる大島のおみなは老ひて腰まがらずと

髪を包みモンペを着けて登るなり砂漠より来る風の強きに

立ちのぼる煙のうづが白雲の如くただよふ山上の空に

帰りには椿林の中をゆく残りの花を眺めながらに

大町桂月ゆかりの地とぞ赤松の林のなかにわらぶきの家

朝々を庭に来て鳴く鶯が今朝も来てをり樫の梢に
by hahanamiko | 2012-02-28 22:50 | 美知思波

昭和三十六年 三月号

炬燵にて苺を食ぶるこのおごり思ひつつさじにつぶしゐるなり

ようやくに祝辞終わりてふた取りし吸い物は既に冷たくなりをり

浩宮を抱きまゐらせる美智子妃の写真に見入る風吹く街に

うつつなく車ばかりを見てゐたり岡島前に人を待ちつつ

信濃路を亡父と旅ゆく夢なりきさめてまざまざと想ひだしをり
by hahanamiko | 2012-02-23 16:20 | 美知思波

昭和三十六年 二月号

レディーファーストの良きありかたを見たりけりギブソン夫妻と三日居りつつ

もてなしの貧しさ云はず暖かき雰囲気よしと喜び給ふ

日本の風呂も布団もはじめての夫人の眠り浅くいまさむ

英国の王室につながり近しと云ふ気品自らなり夫人の立ち居



買い物袋投げ出して口をおさへたりラケット振りし子の傍らに

我が肩に手をおきて子等はのぞきこむゴメンゴメンとかたみに云ひて



岡島の屋上に子等の遊ぶさま良く見ゆるなり歌会の席に

詠草を前に頭をかしげをり五首を選ぶがむずかしくて



葬りの式おごそかなりき父子二代仕へし宮の其の広前に

闘病の永きに堪へし君にしてあはれ過ちに逝きませしとは
by hahanamiko | 2012-02-19 17:25 | 美知思波

昭和三十六年 一月号

笹子隋道越えたるところ雪ありてコートの衿に吾が手が動く

狭山の茶は麦の畑を廻りゐる畦づくりにて広々つづく

唄の声すでにやみたるバスの中そこここにいびき聞こえはじめつ

浅川にて買ひしとろ芋ぶら下げて夜更けの町をひとり帰りく



先生も嬉からまし奥様も嬉からまし並びいまして



むつき百枚小さき着物も縫ひはじむやがて生まるる初孫のため

大根を朝な朝なにひろげ乾す南向きなるトタンの屋根に
by hahanamiko | 2012-02-16 23:19 | 美知思波
雨にぬれて色まさりたる山うるし黄に染む山のところどころに

千曲川にそひて過ぎゆく佐久平稲はなびけり見わたすかぎり

戸倉ヘルスセンター県営にて年間数千万の赤字なりとぞ

川中島合戦の址と指ささる広き河原に薄がそよぐ

しづしづと聖が歩む両がわに数珠受けむとて人等うづくむ

内堀に影うつしたる天守閣五層がゆるる波のまにまに

日本一の生糸の町とうたはれし岡谷に製糸場減るばかりとぞ



薬まきて田の草は一度も取らずといふ稲実る田の畦に立つなり

杭に打つ木の年輪が細かくて三十年は経ちてゐるなり



植木市をひと廻りしてほしきものあれこれと見つなんにも買はず

二時間のあひだつくづく見て廻る花器も香炉も皆ほしきもの



奥みたけより夏に採り来し楓なり庭の陽なたにくれなゐなせる



昇り竜下り竜のこと語り合ふ朱色鮮やかなる拝殿に

眼つぶりて祝辞を聞けり拝殿の円座といふに吾ら座りて

手に付きし金粉みつつ思ひ出つ父が賜いたるみたけの鈴を



街頭に公明選挙のビラ配る色々の事思ひつづけて
by hahanamiko | 2012-02-16 00:15 | 美知思波

昭和三十五年 十月号

箸持ちて吾が家の夕げ食し給ふケンブリッジ大学教授ギブソン博士

枝豆を一粒一粒むきながら食べ給ふなりギブソン博士


あら草の丈なす茂り荒川の岸を中洲をうめつくしおり

築山の松かたむきて池に這ふこの趣も台風のため



一合の酒二人にて分ち呑み機嫌がよろし夫と息子と

底に手をつきて泳ぎの真似しつつ吾ら六人湯に遊びゐて
by hahanamiko | 2012-02-14 13:10 | 美知思波

昭和三十五年 九月号

ひりひりと裸のうでが痛むなり真陽照りつける笛吹河原

湖尻よりきほひ下れる水勢のしずかになりて町の中ゆく

美知思波七月号巻末に貼りおかむ君がみ歌のひとすじの道

巨大なる機械はすべて被われて唯大いなる音がとどろく

姑上にいただきしと云ううす衣の濃紺が匂ふ朱色の帯に
by hahanamiko | 2012-02-14 13:01 | 美知思波

昭和三十五年 八月号

畔道にござ敷きならべひろげ食す流るる水に足をひたして

畦草のしげりをぬきて彼岸花ところどころに咲きいでにけり

稲の色青み来たりて乱れ葉のゆれやわらかに朝の風ふく

水際に麻菰の茂るひと所夕陽は光る波のまにまに

一枝に五つの蕾咲きそめて壷に重たし山百合の花

紺がすりに赤き帯して乙女等が田植えせりけり二十年前は

音たてて流るる水に沈めたるジュースを畦に侘ちて飲みたり



いづれ良しと日定むべき右左みなそれぞれの理わりありて

友情を打算にかへよと云ふ人あり吾は黙して帰り来にけり

声荒く満座に人を辱しむいつもながらの横車にて

しみじみと独りなりけり集まりて人等の話題聞きながらゐて



吾が呼べば物憂げにジャック首上げて尾を動かせり牡丹のした

岸さんの血が絨毯に染みたりと云ふ記事を読む顔よせ合ひて
by hahanamiko | 2012-02-13 15:32 | 美知思波

昭和三十五年 七月号

天使像かざられてゐる床前に慰問の品を積み上げにけり



泡立ちつしぶきつ水は流れ下る白き巨岩のつらなる所

トラックに張りたる綱に縋りつつ石ころ路を登る一時間

山小田に水張られゐて苗代の早苗そよげり五月の風に



哺乳びん舌におし出しいつしかに眠り入りたるみちたる顔に

挿しおきし薔薇が小さく芽ぐみしと夫はこごみて吾を呼びをり
by hahanamiko | 2012-02-12 22:47 | 美知思波

昭和三十五年 六月号

庭石のくぼみの水を折々に動かして雨降り止まぬなり

大でまり小でまり今を盛りにて雨降る庭を明るませおり

京島式と先生は笑ひ給ふなり葉に開きたるわらびを採るに

吉田先生の手入れ見事に庭石の其の一つだにおろそかならず


姉上のえらび給ひし打ちかけぞ金糸の鶴の縫ひ盛り上がる

洋子の手かすかに震えゐたりけり巫女のささげし杯受けて

愛子を迎え洋子嫁がせ慌しく過ぎてしまえり二ヶ月あまり


耳近くせせらぎの音も聞こえゐて君が新居に陽の光みつ

桑畑穂麦の畑桃畑君が家居をめぐらするもの
by hahanamiko | 2012-02-11 13:43 | 美知思波