昭和三十七年 一月

もろこしと柿と乾されてゐたりけり山ふところの農家の軒に

外堀の一部は蓮の田になりて枯葉が浮かぶさひたる水に

ちょうなあと黒く光れる太柱我の目につく天守閣一階二階

這い上る敵を落さむしかけとぞ堀にそひたる石おとし穴

諏訪の湖の岸に寄りたるあくたあり浮かびて動くゴムまりふたつ

千代田湖に釣りし若さぎ賑やかに揚げてゐるなり若き夫婦が

浅利汁呑みつくしたる鍋底に白く小さき蟹の残れる

背の君にそひてつつましく侘ち給う花束受くる露木夫人が
# by hahanamiko | 2014-12-06 21:03 | 美知思波
目覚むれば早信濃路ぞ窓ちかくつづく林にうす明かりして

見はるかす稲田はすでに刈り終えて稲架つらなる佐久の平に

梓川の瀬音に覚めて仰ぎみる山は明るく雨上がりなり

ぬかるみに足をとらるるをおそれつつ熊笹の根にすがりて歩く

岩山の岩にしたたる水ありて杉苔は茂る深きみどりに

一握りの杉苔を紙に包むなり三寸ほどの楓もそへて

藍深き色にしづもりきりたてる山をうつせり明神池に

昨日降りし雪にかがやく奥穂高明神岳の上に見えをり

焼岳の噴火に生まれたりと云う大正池はひろらに浅し
# by hahanamiko | 2013-01-16 19:30 | 美知思波
関東一の大伽藍とぞ九分どおり改築成れる善光寺本堂

赤銅の屋根よし丹塗りの柱よし七十五尺の高き棟よし

大仏はやはり美男に在すなり善光寺本堂ま東にして

十万坪に堂塔伽藍ならびたる其のかみのこと想ひみるなり

鎌倉時代の刀きずあり槍きずあり薬師堂四隅の丸き柱に

金色に耀き在す薬師如来その顔拝すせまき御堂に

泉石に昔ながらに容良き松も残れり草生のなかに

見かへれば夕陽をあびておごそかなりここより見ゆる善光寺本堂
# by hahanamiko | 2013-01-16 19:12 | 美知思波

昭和三十六年 十月号

二階のひさしにいくつもの蜂の巣がありて風除けするにもてあますなり

ガーベラの紅あざやかに見ゆるなり待ちわびし雨ひと夜を降りて

アルバイト学生と云ふが今日も来てまた買わされきゴムのテープを

バケツにて川より運ぶ幾十杯つつじもガーベラも息づきて見ゆ

下駄ぬげばこころよきかな吾が撒きし水足裏にひえびえとして

智子と二人英語に話すかたわらに手持ち無沙汰に吾は茶をくむ

四肢張りて泣きし力の抜けしとき英幸の頭うでに重たし

二ヶ月を吾家に肥えし和子なり駅までをせめて吾が抱きゆかむ

智子就職決定の報届きたり台風予報しきりなるとき

学びたること生かさむときほひたる汝が願の今ぞかなひし

釘打つがしきりに聞こゆ台風のすでにつのれる雨の最中に

四針縫ふ其のひと時をつきてゐて愛子も吾も貧血おこす
# by hahanamiko | 2013-01-16 19:00 | 美知思波

昭和三十六年 九月号

小淵沢より歩きたる十五分ほこりかむれる草の道なり

酒もジュースも池に沈めて口すすぎ手を洗ひたり滝の清水に

拝殿に吾等並びて紅ますのゆわれ聞くなり農組合長に

置物かと思ひたりけり神殿の前に動かぬ蟇が一匹

胸にズボンに尿されつつ笑ふなり蟇をとらへて抱き来し人が

たしかなる手ごたえありて釣上げし紅鱒が芝の上に跳ねゐる

あらき歯をおそれ乍ら針をとる一尺ほどの肥えし紅鱒

孫二人にあせもを出さぬがそのことが夫と吾れとの仕事のひとつ

和田山のキャンプの一夜明けし時君が夫君の訃報とどきぬ

二十人があわただしくも下山する露のままなる百合を束ねて
# by hahanamiko | 2013-01-16 18:34 | 美知思波