母の詠草


by hahanamiko

昭和三十六年 八月

女児生ると聞きて来りし病院のベッドに洋子は眠りゐにけり

百三十グラムの乳を一息にのみて和子は吾がうでに眠る

吾が家に来たりて十日下ぶくれになりて可愛くなりたり和子



三つの山三つの谷を埋めなしてゴルフ場建設いま盛りなり

六道地蔵尊二十五菩薩曽我兄弟虎御前の墓道沿ひにあり

芝山の芝をくぎりて若き杉うねなして見ゆ長尾峠に
# by hahanamiko | 2013-01-16 18:19 | 雑詠

昭和三十六年 八月号

朝な朝な夫がハタキをかけるなり十日余りを吾が臥ししかば

胃癌にて死にたる父を思ひつつ胃が重ければ胸さするなり

笹竹の比ひと葉ひと葉に露ありてこぼれては満ちこぼれては満つ

一揃の小さき食器ならべおきて英幸に食わす一粒の飯

幾年か茂りし真菰なくなりて丈高き葦さわぐ川すじ

やがてメダカもハヤも棲むべし町人に清められたるこの川筋に

岱古園の奥庭の池しづかにて岸に咲きたり水萩の花
# by hahanamiko | 2012-09-28 19:56 | 美知思波
折々に波はね返す魚あり吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風立つと見し間に

初島ははるかになりて空と海ひと貫にして蒼あおつづく

この島の重要産物のひとつとぞ島をおほえる細き竹原

はるばると椿を見むと来たりしに二月十九日半ば散りたる

砂漠より吹きつのる風強ければモンペを着けて登らむとする

右に見る錦ヶ浦は朝の陽に波かがやきて果てもあらず
# by hahanamiko | 2012-09-24 16:55 | 雑詠

昭和三十六年 七月号

風吹けばみかんの花が匂ひくるリフトに乗りて山をゆく時

十二人が二列に並び綱を引く久能山よりみゆる浜辺に

切妻のわらぶき屋根は倉庫とぞ足高き台の上に建てらる




摘果しつつりんごに袋かけてをり肩も痛かりくびも痛かり

目ばかり出して顔をつつみし乙女等がよく話すなり袋かけつつ



朝な朝な挿し木のバラをのぞき見る赤く小さく芽のふくらむを



美が森つつじの間わけわけて児等は蕨をさがしゐるなり

所どころ枯れ枝白く見えてゐき天然記念物のこの大つつじ
# by hahanamiko | 2012-03-07 21:30 | 美知思波

昭和三十六年 六月号

小山田に水はられをり若緑もえたつ山の影を映して

台風に傾きしままの大榎春きし梢葉の茂りをり



畳する足音のこしてこの部屋の帯戸が開き君現われぬ

琴の音のもるる江利川先生の門前歩く孫をまもりつ

左手に重み加はりてきたりけり英幸かろきいびきたてゐる

雨蛙潜みゐたり棕櫚の葉の重なり合ひてゐたるところに



幾年を心通ひし人と居り今日を限りの会議の席に
# by hahanamiko | 2012-03-02 19:00 | 美知思波