母の詠草


by hahanamiko
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関東一の大伽藍とぞ九分どおり改築成れる善光寺本堂

赤銅の屋根よし丹塗りの柱よし七十五尺の高き棟よし

大仏はやはり美男に在すなり善光寺本堂ま東にして

十万坪に堂塔伽藍ならびたる其のかみのこと想ひみるなり

鎌倉時代の刀きずあり槍きずあり薬師堂四隅の丸き柱に

金色に耀き在す薬師如来その顔拝すせまき御堂に

泉石に昔ながらに容良き松も残れり草生のなかに

見かへれば夕陽をあびておごそかなりここより見ゆる善光寺本堂
# by hahanamiko | 2013-01-16 19:12 | 美知思波

昭和三十六年 十月号

二階のひさしにいくつもの蜂の巣がありて風除けするにもてあますなり

ガーベラの紅あざやかに見ゆるなり待ちわびし雨ひと夜を降りて

アルバイト学生と云ふが今日も来てまた買わされきゴムのテープを

バケツにて川より運ぶ幾十杯つつじもガーベラも息づきて見ゆ

下駄ぬげばこころよきかな吾が撒きし水足裏にひえびえとして

智子と二人英語に話すかたわらに手持ち無沙汰に吾は茶をくむ

四肢張りて泣きし力の抜けしとき英幸の頭うでに重たし

二ヶ月を吾家に肥えし和子なり駅までをせめて吾が抱きゆかむ

智子就職決定の報届きたり台風予報しきりなるとき

学びたること生かさむときほひたる汝が願の今ぞかなひし

釘打つがしきりに聞こゆ台風のすでにつのれる雨の最中に

四針縫ふ其のひと時をつきてゐて愛子も吾も貧血おこす
# by hahanamiko | 2013-01-16 19:00 | 美知思波

昭和三十六年 九月号

小淵沢より歩きたる十五分ほこりかむれる草の道なり

酒もジュースも池に沈めて口すすぎ手を洗ひたり滝の清水に

拝殿に吾等並びて紅ますのゆわれ聞くなり農組合長に

置物かと思ひたりけり神殿の前に動かぬ蟇が一匹

胸にズボンに尿されつつ笑ふなり蟇をとらへて抱き来し人が

たしかなる手ごたえありて釣上げし紅鱒が芝の上に跳ねゐる

あらき歯をおそれ乍ら針をとる一尺ほどの肥えし紅鱒

孫二人にあせもを出さぬがそのことが夫と吾れとの仕事のひとつ

和田山のキャンプの一夜明けし時君が夫君の訃報とどきぬ

二十人があわただしくも下山する露のままなる百合を束ねて
# by hahanamiko | 2013-01-16 18:34 | 美知思波

昭和三十六年 八月

女児生ると聞きて来りし病院のベッドに洋子は眠りゐにけり

百三十グラムの乳を一息にのみて和子は吾がうでに眠る

吾が家に来たりて十日下ぶくれになりて可愛くなりたり和子



三つの山三つの谷を埋めなしてゴルフ場建設いま盛りなり

六道地蔵尊二十五菩薩曽我兄弟虎御前の墓道沿ひにあり

芝山の芝をくぎりて若き杉うねなして見ゆ長尾峠に
# by hahanamiko | 2013-01-16 18:19 | 雑詠

昭和三十六年 八月号

朝な朝な夫がハタキをかけるなり十日余りを吾が臥ししかば

胃癌にて死にたる父を思ひつつ胃が重ければ胸さするなり

笹竹の比ひと葉ひと葉に露ありてこぼれては満ちこぼれては満つ

一揃の小さき食器ならべおきて英幸に食わす一粒の飯

幾年か茂りし真菰なくなりて丈高き葦さわぐ川すじ

やがてメダカもハヤも棲むべし町人に清められたるこの川筋に

岱古園の奥庭の池しづかにて岸に咲きたり水萩の花
# by hahanamiko | 2012-09-28 19:56 | 美知思波