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母の詠草


by hahanamiko

昭和三十六年 五月号

相模野の林の中の寮社にて今宵は独り寝るらむ順子



順調に育ちて二十五日目ぞ拳を口にする孫英幸は

湯浴みさせる吾が手の上におとなしく目を開き口をつぐみいるなり

一日の半を孫にかかわりてあわただしかり吾が明け暮れの



吉野山もかくやあるべし等云ひて登り行くなり山のそば路

太き幹の所々に芽を吹きてそこにも咲けり一層の花

目の下にきほひ流るる桂川背音はひびく山の上まで

雪消水富士より流れ下るらし桂川の水白くにごれり

雪しろに濁りて早き桂川溶岩あればしぶき立てつつ

健脚と云はれて先にたちてをりあへぎて登る友を呼びつつ
# by hahanamiko | 2012-03-01 21:45 | 美知思波

ジャック死す

死期すでに近くなりにしか終日を咳きつつ小屋にこもれるジャック

名を呼べば寝ねたるままに尾を振れる毛並みもつやもおとろへ見せて

固きこぶ腹に三つあり犬の老衰の表れと人等云います



庭隅に土盛り上げて丸き石上に置くなりジャックを埋めて
# by hahanamiko | 2012-03-01 21:35 | 雑詠

昭和三十六年 四月号

折々に波におどるは何魚ぞ吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風たつと見し間に

頭にのせて物を運べる大島のおみなは老ひて腰まがらずと

髪を包みモンペを着けて登るなり砂漠より来る風の強きに

立ちのぼる煙のうづが白雲の如くただよふ山上の空に

帰りには椿林の中をゆく残りの花を眺めながらに

大町桂月ゆかりの地とぞ赤松の林のなかにわらぶきの家

朝々を庭に来て鳴く鶯が今朝も来てをり樫の梢に
# by hahanamiko | 2012-02-28 22:50 | 美知思波

昭和三十六年 三月号

炬燵にて苺を食ぶるこのおごり思ひつつさじにつぶしゐるなり

ようやくに祝辞終わりてふた取りし吸い物は既に冷たくなりをり

浩宮を抱きまゐらせる美智子妃の写真に見入る風吹く街に

うつつなく車ばかりを見てゐたり岡島前に人を待ちつつ

信濃路を亡父と旅ゆく夢なりきさめてまざまざと想ひだしをり
# by hahanamiko | 2012-02-23 16:20 | 美知思波

昭和三十六年 二月号

レディーファーストの良きありかたを見たりけりギブソン夫妻と三日居りつつ

もてなしの貧しさ云はず暖かき雰囲気よしと喜び給ふ

日本の風呂も布団もはじめての夫人の眠り浅くいまさむ

英国の王室につながり近しと云ふ気品自らなり夫人の立ち居



買い物袋投げ出して口をおさへたりラケット振りし子の傍らに

我が肩に手をおきて子等はのぞきこむゴメンゴメンとかたみに云ひて



岡島の屋上に子等の遊ぶさま良く見ゆるなり歌会の席に

詠草を前に頭をかしげをり五首を選ぶがむずかしくて



葬りの式おごそかなりき父子二代仕へし宮の其の広前に

闘病の永きに堪へし君にしてあはれ過ちに逝きませしとは
# by hahanamiko | 2012-02-19 17:25 | 美知思波