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母の詠草


by hahanamiko

昭和三十六年 一月号

笹子隋道越えたるところ雪ありてコートの衿に吾が手が動く

狭山の茶は麦の畑を廻りゐる畦づくりにて広々つづく

唄の声すでにやみたるバスの中そこここにいびき聞こえはじめつ

浅川にて買ひしとろ芋ぶら下げて夜更けの町をひとり帰りく



先生も嬉からまし奥様も嬉からまし並びいまして



むつき百枚小さき着物も縫ひはじむやがて生まるる初孫のため

大根を朝な朝なにひろげ乾す南向きなるトタンの屋根に
# by hahanamiko | 2012-02-16 23:19 | 美知思波
雨にぬれて色まさりたる山うるし黄に染む山のところどころに

千曲川にそひて過ぎゆく佐久平稲はなびけり見わたすかぎり

戸倉ヘルスセンター県営にて年間数千万の赤字なりとぞ

川中島合戦の址と指ささる広き河原に薄がそよぐ

しづしづと聖が歩む両がわに数珠受けむとて人等うづくむ

内堀に影うつしたる天守閣五層がゆるる波のまにまに

日本一の生糸の町とうたはれし岡谷に製糸場減るばかりとぞ



薬まきて田の草は一度も取らずといふ稲実る田の畦に立つなり

杭に打つ木の年輪が細かくて三十年は経ちてゐるなり



植木市をひと廻りしてほしきものあれこれと見つなんにも買はず

二時間のあひだつくづく見て廻る花器も香炉も皆ほしきもの



奥みたけより夏に採り来し楓なり庭の陽なたにくれなゐなせる



昇り竜下り竜のこと語り合ふ朱色鮮やかなる拝殿に

眼つぶりて祝辞を聞けり拝殿の円座といふに吾ら座りて

手に付きし金粉みつつ思ひ出つ父が賜いたるみたけの鈴を



街頭に公明選挙のビラ配る色々の事思ひつづけて
# by hahanamiko | 2012-02-16 00:15 | 美知思波

昭和三十五年 十月号

箸持ちて吾が家の夕げ食し給ふケンブリッジ大学教授ギブソン博士

枝豆を一粒一粒むきながら食べ給ふなりギブソン博士


あら草の丈なす茂り荒川の岸を中洲をうめつくしおり

築山の松かたむきて池に這ふこの趣も台風のため



一合の酒二人にて分ち呑み機嫌がよろし夫と息子と

底に手をつきて泳ぎの真似しつつ吾ら六人湯に遊びゐて
# by hahanamiko | 2012-02-14 13:10 | 美知思波

昭和三十五年 九月号

ひりひりと裸のうでが痛むなり真陽照りつける笛吹河原

湖尻よりきほひ下れる水勢のしずかになりて町の中ゆく

美知思波七月号巻末に貼りおかむ君がみ歌のひとすじの道

巨大なる機械はすべて被われて唯大いなる音がとどろく

姑上にいただきしと云ううす衣の濃紺が匂ふ朱色の帯に
# by hahanamiko | 2012-02-14 13:01 | 美知思波

昭和三十五年 八月号

畔道にござ敷きならべひろげ食す流るる水に足をひたして

畦草のしげりをぬきて彼岸花ところどころに咲きいでにけり

稲の色青み来たりて乱れ葉のゆれやわらかに朝の風ふく

水際に麻菰の茂るひと所夕陽は光る波のまにまに

一枝に五つの蕾咲きそめて壷に重たし山百合の花

紺がすりに赤き帯して乙女等が田植えせりけり二十年前は

音たてて流るる水に沈めたるジュースを畦に侘ちて飲みたり



いづれ良しと日定むべき右左みなそれぞれの理わりありて

友情を打算にかへよと云ふ人あり吾は黙して帰り来にけり

声荒く満座に人を辱しむいつもながらの横車にて

しみじみと独りなりけり集まりて人等の話題聞きながらゐて



吾が呼べば物憂げにジャック首上げて尾を動かせり牡丹のした

岸さんの血が絨毯に染みたりと云ふ記事を読む顔よせ合ひて
# by hahanamiko | 2012-02-13 15:32 | 美知思波