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母の詠草


by hahanamiko

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今市の町を過ぐれば軒ごとにここだく乾せり赤とうがらし

眠り猫はこれなりと君指差しぬ成程小さきこの眠り猫

ようやくに雨上りたるいろは坂もみじはもゆる山々渓々

白樺も松も紅葉に色そえて男体山は云うばかりなし

耳をすませば河鹿の声も聞こえくる足長々とひたる湯舟に

荒川の中洲をうめし薄の穂ほほけてゆるる風のまにまに
by hahanamiko | 2011-10-16 20:42 | 美知思波
山査子のつぶら実が陽に光をり盆栽棚の松に並びて

光沢良き茶碗の白に午後の日のうつらふ様を見つつ久しむ

彼岸花群れなして咲き居たりけり葡萄棚のしたの小路に

勤務評定反対の署名もとめゐる街角を人等さけて過ぎ行く

ブロックに塀ととのえて吾が家の庭の隅々明るくなりぬ

虫食ひし土台木割りて風呂を焚く古りたる塀を壊せし夕べ

訪ね来し子等二十人かりそめの教師洋子にまつわり唄ふ

若き情熱かたむけて子等を教えつつ四十日たてば別れねばならぬ

胸深くくづをるるもの持ちてあらむ産休補助の教師洋子
by hahanamiko | 2011-10-16 20:32 | 美知思波

和三十三年十月号  

灯に近くセーターを編む吾が腕を首筋を刺すみどりうんかが

読経の声のままに流れ来る灯籠は刻々に数を増しつつ

幾つかは灯の消えたるもまじりゐてとうろうは吾等の前を過ぎ行く

ハッパの響きとどろきわたり幾条のけむり立つ見ゆ渓のかなたに

中島技師殉職のしるし立てられし崖よりのぞく深き渓間を

中沢建設の広き飯場にくつろぎて残りのむすびまたとりいだす

吾等のために長州風呂も沸きてあり飯場の横のトタン囲いに

山の水ビニールホースに導きてたたえられたりまろき湯ぶねに

枝をゆすり猿どもが栗をとると云う林がつづく飯場の裏に

草うるし尾花撫子おみなえし萩も桔梗も今さかりにて
by hahanamiko | 2011-10-16 20:16 | 美知思波
双葉町登美の高地をバスは行く赤きほこりを巻き上げながら

山幾つ越せる峡に村ありて段なせる田稲の穂そよぐ

とうとうと落ちて泡立つ滝壺を見下ろす岩に六人座る

木を組し牧場の柵を入りしかばそこはかとなき馬のにほひす

艶やかに毛並み光らせ青は青栗毛は栗毛の仔がつづきたり

とりどりの花乱れ咲き目の限り花園をなすここのなだりは

頂の大いなる岩に侘ちてゐて手を振る順子の赤きブラウス

野辺山に近き頂より山独活の花が咲きをり白くこごりて
by hahanamiko | 2011-09-15 00:06 | 美知思波

昭和三十三年

まだきより田に響きくる拡声器なべては水のことばかりなり

焼け畠に七月の陽はきびしくてかさかさと鳴るもろこしの葉が

二十日鼠のはだら子を畦の上におき殺してがなく見ていたりけり

換金作物転換の話もはらなり乏しき水に田を植えながら

十三時間労働すでに幾旬ぞ鬢も伸びたり日焼けし顔に

毒虫に刺されし足がひりひりと痛みやまざり泥の中にて

雨を待つ人々の願いむなしくて空あかあかと暮れそめにけり

ふやけたる足に小砂利をふみながら暗みそめたる野路を帰る

繭米野菜すべてを人の定める値段にて売らねばならぬ百姓

教職を一筋の道と学びたる若き等の行く手いかにせよとや

職無くば家にしありて良き妻となるべき業にいそしめ洋子

とくほんを両肩にはりひねもすを横たわりいて美知思波を読む

すだれ越しの風を受けつつ式台に蟻忙しく動けるをみる

時折はとどまりて触手振りながら何を探すか黒蟻二匹
by hahanamiko | 2011-09-07 22:42 | 雑詠
刻々に冷えゆく指をにぎりつつ魂よびかえすすべなかりけり

不撓不屈の性持ちてゐし母なりきまざまざと見る節立ちし指に

体温のいまだ残れる背を胸を清めまゐらす熱きタオルに

泪のまま見てゐたりけり母の棺に次々と釘の打たれゆくを

母を焼く煙はすでに立ちはじむ愛宕の山の空ひとすじに

頭骸骨のみ僅かに形とどめたる灰の中より御骨を拾ふ

愛用の手提袋が其のままの形に黒く残りゐるなり

やすらかに旅立ち給へ西方浄土蓮華のみ座に父待ちまさむ

母が手織りも幾枚かまじりゐて遺品分けする吾れ等泣かす

すでにして死期を知りしか整然と整ひいたり母の品々

老いの手に縫い上げにけむ着物羽織しつけの糸の白さわやかに

肌着をも一枚づつは頂かむ母の香りのしみゐるものを

たらちねの母いまさねば口数も勘くなりて六人座る
by hahanamiko | 2011-03-06 23:25 | 美知思波

昭和三十三年六月号

諏訪の湖広々として静かなり岸近くゐる小さき漁船

あの山も落葉松林この山も落葉松林萌えたつ落葉

千曲川くねりくねりて流るるを小諸の城の高きより見る

枯れ葦の群立つかたに榛名湖の青はさやかに見えてきしかな

裄丈の長きどてらにくるまりて夜は伊香保の町に出でたり

鉄筋コンクリート百五十尺の御高さ美女にて存す高崎観音

水澄める秩父長瀞ささ舟はゆるく下れリ吾らを乗せて

船ばたに侘ちて掉さす船頭の日に焼けし腕しみじみ見る

みやげ物の店に並びし石細工蝦蟇猿河鹿そして文鎮

幾年ぶりのおごりと云はむ夫と子を家に残して旅行く我等
by hahanamiko | 2011-03-01 17:42 | 美知思波

昭和三十三年五月号

濠に面して散り残りたる一樹ありその木の元にまろく座をしむ

旗印も毛槍も金具光らせて調えられぬ神殿の前

指先を緑に染めて外苑の芝生の土筆積みにけるかな

畠中に侘ちていませる地蔵尊白き涎掛け幾枚もして

麦青き甲斐の平らを一望に岩に座りて昼の飯食す

黙々と岩に音立つる四人ありここは片山石切り場にて

水澄める小川の底に白き腹見せて沈めり鮒が鱒が

下肥のにほひしてゐる畑あり玉葱のうね青々として

午前五時漸く夫は帰り来ぬ重油焚く村めぐりめぐりて

霜害対策甲斐なかりしと手袋ぬぎつつ夫はぽつりと云えり
by hahanamiko | 2011-02-27 23:44 | 美知思波

昭和三十三年四月号

恐れつつ取りし受話器に智子合格の言葉まさしく聞こえきにけり
by hahanamiko | 2011-02-21 15:09 | 美知思波

昭和三十三年三月号

雪解け水一面に氷りたり伊勢小学校北側の庭

四、五人の児童等が滑りいたりけり校舎の裏の厚き氷に

板塀にしたたか泥をはねかけてトラックは隣の前に止まりぬ

女等よ政治によろめくことなかれ強く言いましし高山しげり

物云えば唇寒し云はざれば腹のふくるるどちらも道理

八ッ嵐顔に受けつつ荒川の土手急ぐなり母に行くべく

鍬かたげ亡父と歩みし所なり今枯れ芝をふみて侘つ路

六人のはらから集い古里の炬燵に更かす母をかこみて

幼等は漸く寝てしまひたりうから六人語り明かさぬ
by hahanamiko | 2011-02-16 22:56 | 美知思波