母の詠草


by hahanamiko

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昭和三十二年十二月号

三十人一日侘ちて募金せり一万七千六百六十円

お願いしますと頭を下げし吾が前を通り過ぎたり向井先生

着飾りし人はおおむね横を向き乙女等も関心持たざるらしき

里帰り婦人の持てる悲しみに妻なればこそ我等も泣かゆ

再びは帰り来ることもなかりべし恙あらすな中国人の妻

一ヶ月一玉あての綿を買う計画を来年は立てむと思ふ

愛宕町に際立つ白亜三層の校舎ようやくかたち成りたり

人工衛星の話もはらに挑みいる乗せられし犬のあはれも云いて

ようやくに伸びたる髪を輪に止めて順子は少し大人びにけり

鈴なりの柿が西日に光をり櫛形町の農家の庭に
by hahanamiko | 2011-02-11 16:26 | 美知思波

昭和三十二年十一月号

ハタキをかけつつ智子が唄う子守唄眼つむりしままに聞きおり

枕べに幾冊の本積みおきて読みつつ眠り読みては眠る

折々はガラス戸鳴らし無花果の広葉をゆりて午後の風吹く

帯雲も積乱雲も金色にふちどられつつ北に動けリ

落葉焚く下よりみみずが這い出でぬ棒の先にて引き出してやる

一筋の道を歩みて三十余年夫に陽びたり有功表彰

中間テスト明日は終わると夜もすがら咳きつつ順子は机に寄れリ
by hahanamiko | 2011-02-11 16:11 | 美知思波

雲峰寺

老杉の間の石段百五十登りてそこに仁王尊存す

檜皮ぶきの屋根なだらかなる曲線を仰ぎてしばし本堂の前

天然記念物桜の巨木花あらば見事なるべし庭をうずめて
by hahanamiko | 2011-02-11 16:00 | 雑詠

天竜下り

水底の石にもふるる処あり天竜川を下る川船

さざれ石洗ひつつ流れよる水の広らなりけり天竜河原

岸遠く段丘つづきアカシヤの緑まされりその頂に

傘の産地阿の島と云へるあたりなり鳶舞ひており水すれすれに

おだやかに下ると見しがたちまちにしぶきははねる巨き岩根に
by hahanamiko | 2011-02-11 15:54 | 雑詠

昭和三十二年九月号

親指の爪に黒々と炎のあと残りて脚の痛みは去らず

折々はこごみて脚をさすりつつ厨に朝の支度するなり

虫喰いの柿あかあかと日に光るようやく雨の上がりたる朝

二株の珊瑚樹ありて赤き実が房に実れリ公害の庭に

語るだけ語りて心晴れたるか三日目に母は帰りゆきたり

藻のかげに黒の出目金が浮き上がるひと夏かけて泳ぎしものを

みだい川の水せき止めて落としたる滝のしぶきが作りたる虹

水滴の音絶え間なき隧道を歩きゆくなり鳥肌たちて

山あじさいの紫の花盛りなり潅木茂る山のはざまに

肩越しにのぞきつつ離れて眺めつつ「両国の花火」見飽かざりけり

一筋もゆるがせにせず張りてあり菊の花弁の細かきこより

あふれいるひとの褒め言よそにして清は今日をいずくに居らむ
by hahanamiko | 2010-09-28 16:52 | 美知思波

昭和三十二年九月号

渓間より湧き立つ霧がおもむろに這い登り行く暁の山を

河口湖も富士も濃霧におほわれて虚しき御坂峠路に侘つ

四合目を過ぎし頃より一様に苔をつけたり栂も落葉松も

悉く下に向かひて枝を張るそうしかんばの林に入りぬ霧にぬれつつ

一瞬の晴れ間を仰ぐ山頂に青き空あり白き雲あり

倒れたるままに朽ちゆく大木に寄りて茂れる深山石南花

なだらかに樹海ひろがる目の下を見つつ飽かなく中道に侘つ

いつしかに林はつきていたどりの群落が見ゆ目の下遠く

「此処が山女の釣り場です」と運転手指さす淵をのぞき見しかな

塩川の流れにそひて幾曲がりバスは揺れつつ増富にゆく

木がくりに橋が見えをり通仙峡と書きし木札の立ちたるところ

「サイダーの味がする」等云い合いて増富の湯を飲みにけるかな

瀬を渡り岩に登れば湯の宿の縁にて友がカメラ向けおり
by hahanamiko | 2010-09-27 22:28 | 美知思波

大菩薩峠登山 家族にて

吾等四人の足音のみの山中に何の鳥ぞも折々きこゆ

渓間にもゆく手にも白きうどの花生更先生に見せたしと思ふ

名は知らず紫の花群れ咲けり富士見平の草原のなか

ころばせつつ云いましき生きむがための戦ひですと
by hahanamiko | 2010-09-05 22:09 | 雑詠

昭和三十二年八月号

裏山の深きに入りて太く長きわらび採るなり茨を分けて

山独活の伸びすぎたるを採る人あり来年は早く来むなど云いて

ひたぶるに子を守りつつ老いゆくか独りなる母に頭をたるる

前途永き独りの生きを憶ふなり若く美しき母の幾たり
by hahanamiko | 2010-08-15 06:36 | 美知思波

母子家庭行楽に参加

山間の棚田にテーラーびびかせて田植えの支度いま盛りなり

変声期の少年が唄ふ上を向いて歩こうに声合わすなり相談員我れ等

念場ケ原開拓農家のかたぶきし納屋の近くに牛うずくまる

六月の風爽やかに吹き渡る氷雨晴れし八ツ高原に

母子家庭行楽の日ぞ寄りそひて母と子が行くつつじの中を
by hahanamiko | 2010-08-14 23:20 | 雑詠

暮らし

昂ぶりし心ようやく静まりぬガラス戸四枚拭き終えしとき

牛車に乗りし農婦が声高に話しつつ帰る夕べの路を

夜更けまで耕耘機の音響かする明日の田植えの支度するらし

今年もまた冷害などと云いあいて七月五日田を植うるなり

刈り干せる麦をば浮かばせ田を川を一つとなして雨降りやまず

養鶏も花弁栽培も病む夫に代われる君のたつきなりけり
by hahanamiko | 2010-08-14 23:10 | 雑詠