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目覚むれば早信濃路ぞ窓ちかくつづく林にうす明かりして

見はるかす稲田はすでに刈り終えて稲架つらなる佐久の平に

梓川の瀬音に覚めて仰ぎみる山は明るく雨上がりなり

ぬかるみに足をとらるるをおそれつつ熊笹の根にすがりて歩く

岩山の岩にしたたる水ありて杉苔は茂る深きみどりに

一握りの杉苔を紙に包むなり三寸ほどの楓もそへて

藍深き色にしづもりきりたてる山をうつせり明神池に

昨日降りし雪にかがやく奥穂高明神岳の上に見えをり

焼岳の噴火に生まれたりと云う大正池はひろらに浅し
by hahanamiko | 2013-01-16 19:30 | 美知思波

昭和三十六年 十月号

二階のひさしにいくつもの蜂の巣がありて風除けするにもてあますなり

ガーベラの紅あざやかに見ゆるなり待ちわびし雨ひと夜を降りて

アルバイト学生と云ふが今日も来てまた買わされきゴムのテープを

バケツにて川より運ぶ幾十杯つつじもガーベラも息づきて見ゆ

下駄ぬげばこころよきかな吾が撒きし水足裏にひえびえとして

智子と二人英語に話すかたわらに手持ち無沙汰に吾は茶をくむ

四肢張りて泣きし力の抜けしとき英幸の頭うでに重たし

二ヶ月を吾家に肥えし和子なり駅までをせめて吾が抱きゆかむ

智子就職決定の報届きたり台風予報しきりなるとき

学びたること生かさむときほひたる汝が願の今ぞかなひし

釘打つがしきりに聞こゆ台風のすでにつのれる雨の最中に

四針縫ふ其のひと時をつきてゐて愛子も吾も貧血おこす
by hahanamiko | 2013-01-16 19:00 | 美知思波

昭和三十六年 九月号

小淵沢より歩きたる十五分ほこりかむれる草の道なり

酒もジュースも池に沈めて口すすぎ手を洗ひたり滝の清水に

拝殿に吾等並びて紅ますのゆわれ聞くなり農組合長に

置物かと思ひたりけり神殿の前に動かぬ蟇が一匹

胸にズボンに尿されつつ笑ふなり蟇をとらへて抱き来し人が

たしかなる手ごたえありて釣上げし紅鱒が芝の上に跳ねゐる

あらき歯をおそれ乍ら針をとる一尺ほどの肥えし紅鱒

孫二人にあせもを出さぬがそのことが夫と吾れとの仕事のひとつ

和田山のキャンプの一夜明けし時君が夫君の訃報とどきぬ

二十人があわただしくも下山する露のままなる百合を束ねて
by hahanamiko | 2013-01-16 18:34 | 美知思波

昭和三十六年 八月

女児生ると聞きて来りし病院のベッドに洋子は眠りゐにけり

百三十グラムの乳を一息にのみて和子は吾がうでに眠る

吾が家に来たりて十日下ぶくれになりて可愛くなりたり和子



三つの山三つの谷を埋めなしてゴルフ場建設いま盛りなり

六道地蔵尊二十五菩薩曽我兄弟虎御前の墓道沿ひにあり

芝山の芝をくぎりて若き杉うねなして見ゆ長尾峠に
by hahanamiko | 2013-01-16 18:19 | 雑詠

昭和三十六年 八月号

朝な朝な夫がハタキをかけるなり十日余りを吾が臥ししかば

胃癌にて死にたる父を思ひつつ胃が重ければ胸さするなり

笹竹の比ひと葉ひと葉に露ありてこぼれては満ちこぼれては満つ

一揃の小さき食器ならべおきて英幸に食わす一粒の飯

幾年か茂りし真菰なくなりて丈高き葦さわぐ川すじ

やがてメダカもハヤも棲むべし町人に清められたるこの川筋に

岱古園の奥庭の池しづかにて岸に咲きたり水萩の花
by hahanamiko | 2012-09-28 19:56 | 美知思波
折々に波はね返す魚あり吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風立つと見し間に

初島ははるかになりて空と海ひと貫にして蒼あおつづく

この島の重要産物のひとつとぞ島をおほえる細き竹原

はるばると椿を見むと来たりしに二月十九日半ば散りたる

砂漠より吹きつのる風強ければモンペを着けて登らむとする

右に見る錦ヶ浦は朝の陽に波かがやきて果てもあらず
by hahanamiko | 2012-09-24 16:55 | 雑詠

昭和三十六年 七月号

風吹けばみかんの花が匂ひくるリフトに乗りて山をゆく時

十二人が二列に並び綱を引く久能山よりみゆる浜辺に

切妻のわらぶき屋根は倉庫とぞ足高き台の上に建てらる




摘果しつつりんごに袋かけてをり肩も痛かりくびも痛かり

目ばかり出して顔をつつみし乙女等がよく話すなり袋かけつつ



朝な朝な挿し木のバラをのぞき見る赤く小さく芽のふくらむを



美が森つつじの間わけわけて児等は蕨をさがしゐるなり

所どころ枯れ枝白く見えてゐき天然記念物のこの大つつじ
by hahanamiko | 2012-03-07 21:30 | 美知思波

昭和三十六年 六月号

小山田に水はられをり若緑もえたつ山の影を映して

台風に傾きしままの大榎春きし梢葉の茂りをり



畳する足音のこしてこの部屋の帯戸が開き君現われぬ

琴の音のもるる江利川先生の門前歩く孫をまもりつ

左手に重み加はりてきたりけり英幸かろきいびきたてゐる

雨蛙潜みゐたり棕櫚の葉の重なり合ひてゐたるところに



幾年を心通ひし人と居り今日を限りの会議の席に
by hahanamiko | 2012-03-02 19:00 | 美知思波

昭和三十六年 五月号

相模野の林の中の寮社にて今宵は独り寝るらむ順子



順調に育ちて二十五日目ぞ拳を口にする孫英幸は

湯浴みさせる吾が手の上におとなしく目を開き口をつぐみいるなり

一日の半を孫にかかわりてあわただしかり吾が明け暮れの



吉野山もかくやあるべし等云ひて登り行くなり山のそば路

太き幹の所々に芽を吹きてそこにも咲けり一層の花

目の下にきほひ流るる桂川背音はひびく山の上まで

雪消水富士より流れ下るらし桂川の水白くにごれり

雪しろに濁りて早き桂川溶岩あればしぶき立てつつ

健脚と云はれて先にたちてをりあへぎて登る友を呼びつつ
by hahanamiko | 2012-03-01 21:45 | 美知思波

ジャック死す

死期すでに近くなりにしか終日を咳きつつ小屋にこもれるジャック

名を呼べば寝ねたるままに尾を振れる毛並みもつやもおとろへ見せて

固きこぶ腹に三つあり犬の老衰の表れと人等云います



庭隅に土盛り上げて丸き石上に置くなりジャックを埋めて
by hahanamiko | 2012-03-01 21:35 | 雑詠