母の詠草


by hahanamiko
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三十七年 九月


檜皮ぶきの屋根なだらかなる曲線を仰ぐ本堂前に

吾ら四人の足音のみの山の中何の鳥ぞも折々に鳴く

渓間にもゆく手にも白き独活の花師よ来年は来給ふならむ

大観の画を想はする風情なり白き煙が谿にひろがる

岩の間を落ちくる水の淵なせるひとところあり鍋釜沈む

人ごとにすがりて登りゆきにけむこの藤づるのつやめけるさま

頂上より裾原にまでゆれ動くギボウシの花今さかりにて







by hahanamiko | 2017-07-02 20:30 | 美知思波

三十七年 五月

桂川にそひし岩山岩の間に紫つつじ今さかりなり

午前九時御苑に人のまばらにて咲き極まれり八重桜花

鯉一尾はねて広がる波紋あり御苑の池の真中どころ



孫を守ることに足りつつ日曜に一日を過ごす夫と吾と

トラックに裾よごされて駅に行くバスハイヤーの動かぬ朝を

私鉄ストの余波受けて列車延着と拡声器ひびく駅構内



卒業記念の写真ようやく届きたり大人びて良く撮れたり智子

紅に芽吹く楓に重なりて満天星の翠色増して見ゆ




by hahanamiko | 2016-11-03 21:29 | 美知思波

三十七年 四月

吾が体置どころなし五十人一つの室にまろび伏しゐて

明けきらぬ元町港の桟橋に深々と息吸ひて侘ちたり

カンガルーも鹿ものどかにまろびゐて猿山の猿忙しく動く

若草の萌ゆる時こそ偲ばれれ大室山はまろき芝山

巨大なるに驚き可憐なるを愛で声あげて廻るサボテンセンター




紅梅のつぼみに光る露ありて雨やわらかしあしたの庭に

小さき穴あればそこより指を入れ障子を破ることも覚えき

朝夕に水まきて心和むなりガーベラも百合も芽立ちてゐるに
by hahanamiko | 2016-11-03 21:12 | 美知思波

三十七年 三月

笹子路は雪におほはれゐたりけり芽吹きの色にけぶりながらに

デパート幾つ上り下りして三時間大丸に買ふ木目込みの雛

一万円五万円五十万円かぎりなし雛にも懐ふ人間の段階

洋子にも和子にも似てふくよかなる雛なりこれと決めたる理由

灯をすいて真紅に光るひとところ噴き散る水をあやしくみせて

白きカバー清々とせる座布団に茶がうまかりき浦和母子センター

一枚のハンカチを売り足袋を売り母子会が建てしセンターなりと

母の日のカーネーションの花造る手さばきを見る階下作業場

枯草のなびく広原はるかなり此処は習志野演習場跡地

一毛作の湿田つづき藁ぶきの屋根多き村遠くに見ゆる

波立てて肩を越えゆくいで湯にも入りてみるなり眼つぶりて

冷々と素足に歩む朝早きヘルスセンター熱海館を

一握りの香投げ入れて成田山本堂に合掌す思ふことなく

壱千円永代供養と書かれたる碑が並びゐき本堂裏に

足袋裏を土によごして本堂をまわりてゐたり女二人が
by hahanamiko | 2015-07-12 21:28 | 美知思波
目覚むれば早信濃路ぞ窓ちかくつづく林にうす明かりして

見はるかす稲田はすでに刈り終えて稲架つらなる佐久の平に

梓川の瀬音に覚めて仰ぎみる山は明るく雨上がりなり

ぬかるみに足をとらるるをおそれつつ熊笹の根にすがりて歩く

岩山の岩にしたたる水ありて杉苔は茂る深きみどりに

一握りの杉苔を紙に包むなり三寸ほどの楓もそへて

藍深き色にしづもりきりたてる山をうつせり明神池に

昨日降りし雪にかがやく奥穂高明神岳の上に見えをり

焼岳の噴火に生まれたりと云う大正池はひろらに浅し
by hahanamiko | 2013-01-16 19:30 | 美知思波
関東一の大伽藍とぞ九分どおり改築成れる善光寺本堂

赤銅の屋根よし丹塗りの柱よし七十五尺の高き棟よし

大仏はやはり美男に在すなり善光寺本堂ま東にして

十万坪に堂塔伽藍ならびたる其のかみのこと想ひみるなり

鎌倉時代の刀きずあり槍きずあり薬師堂四隅の丸き柱に

金色に耀き在す薬師如来その顔拝すせまき御堂に

泉石に昔ながらに容良き松も残れり草生のなかに

見かへれば夕陽をあびておごそかなりここより見ゆる善光寺本堂
by hahanamiko | 2013-01-16 19:12 | 美知思波
折々に波はね返す魚あり吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風立つと見し間に

初島ははるかになりて空と海ひと貫にして蒼あおつづく

この島の重要産物のひとつとぞ島をおほえる細き竹原

はるばると椿を見むと来たりしに二月十九日半ば散りたる

砂漠より吹きつのる風強ければモンペを着けて登らむとする

右に見る錦ヶ浦は朝の陽に波かがやきて果てもあらず
by hahanamiko | 2012-09-24 16:55 | 雑詠

昭和三十六年 四月号

折々に波におどるは何魚ぞ吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風たつと見し間に

頭にのせて物を運べる大島のおみなは老ひて腰まがらずと

髪を包みモンペを着けて登るなり砂漠より来る風の強きに

立ちのぼる煙のうづが白雲の如くただよふ山上の空に

帰りには椿林の中をゆく残りの花を眺めながらに

大町桂月ゆかりの地とぞ赤松の林のなかにわらぶきの家

朝々を庭に来て鳴く鶯が今朝も来てをり樫の梢に
by hahanamiko | 2012-02-28 22:50 | 美知思波

昭和三十六年 一月号

笹子隋道越えたるところ雪ありてコートの衿に吾が手が動く

狭山の茶は麦の畑を廻りゐる畦づくりにて広々つづく

唄の声すでにやみたるバスの中そこここにいびき聞こえはじめつ

浅川にて買ひしとろ芋ぶら下げて夜更けの町をひとり帰りく



先生も嬉からまし奥様も嬉からまし並びいまして



むつき百枚小さき着物も縫ひはじむやがて生まるる初孫のため

大根を朝な朝なにひろげ乾す南向きなるトタンの屋根に
by hahanamiko | 2012-02-16 23:19 | 美知思波
雨にぬれて色まさりたる山うるし黄に染む山のところどころに

千曲川にそひて過ぎゆく佐久平稲はなびけり見わたすかぎり

戸倉ヘルスセンター県営にて年間数千万の赤字なりとぞ

川中島合戦の址と指ささる広き河原に薄がそよぐ

しづしづと聖が歩む両がわに数珠受けむとて人等うづくむ

内堀に影うつしたる天守閣五層がゆるる波のまにまに

日本一の生糸の町とうたはれし岡谷に製糸場減るばかりとぞ



薬まきて田の草は一度も取らずといふ稲実る田の畦に立つなり

杭に打つ木の年輪が細かくて三十年は経ちてゐるなり



植木市をひと廻りしてほしきものあれこれと見つなんにも買はず

二時間のあひだつくづく見て廻る花器も香炉も皆ほしきもの



奥みたけより夏に採り来し楓なり庭の陽なたにくれなゐなせる



昇り竜下り竜のこと語り合ふ朱色鮮やかなる拝殿に

眼つぶりて祝辞を聞けり拝殿の円座といふに吾ら座りて

手に付きし金粉みつつ思ひ出つ父が賜いたるみたけの鈴を



街頭に公明選挙のビラ配る色々の事思ひつづけて
by hahanamiko | 2012-02-16 00:15 | 美知思波