遺児と靖国神社参拝

青銅の大き鳥居を入りゆけば鳩は群れいる庭いっぱいに

條立てて清められたる玉砂利に落ち葉しきりなり

百五十人の遺児寂として昇殿す神殿風冷たい朝

父を奪った戦争が憎しと声をのむ遺児代表の言葉に哭けり

秋桜咲きてゐにけり靖国の宮の内苑ふかきところに

かわらけに神酒つぎくれるうら若き巫女の手白く美しかりき
by hahanamiko | 2011-11-20 21:25 | 雑詠
山査子のつぶら実が陽に光をり盆栽棚の松に並びて

光沢良き茶碗の白に午後の日のうつらふ様を見つつ久しむ

彼岸花群れなして咲き居たりけり葡萄棚のしたの小路に

勤務評定反対の署名もとめゐる街角を人等さけて過ぎ行く

ブロックに塀ととのえて吾が家の庭の隅々明るくなりぬ

虫食ひし土台木割りて風呂を焚く古りたる塀を壊せし夕べ

訪ね来し子等二十人かりそめの教師洋子にまつわり唄ふ

若き情熱かたむけて子等を教えつつ四十日たてば別れねばならぬ

胸深くくづをるるもの持ちてあらむ産休補助の教師洋子
by hahanamiko | 2011-10-16 20:32 | 美知思波

和三十三年十月号  

灯に近くセーターを編む吾が腕を首筋を刺すみどりうんかが

読経の声のままに流れ来る灯籠は刻々に数を増しつつ

幾つかは灯の消えたるもまじりゐてとうろうは吾等の前を過ぎ行く

ハッパの響きとどろきわたり幾条のけむり立つ見ゆ渓のかなたに

中島技師殉職のしるし立てられし崖よりのぞく深き渓間を

中沢建設の広き飯場にくつろぎて残りのむすびまたとりいだす

吾等のために長州風呂も沸きてあり飯場の横のトタン囲いに

山の水ビニールホースに導きてたたえられたりまろき湯ぶねに

枝をゆすり猿どもが栗をとると云う林がつづく飯場の裏に

草うるし尾花撫子おみなえし萩も桔梗も今さかりにて
by hahanamiko | 2011-10-16 20:16 | 美知思波

昭和三十三年三月号

雪解け水一面に氷りたり伊勢小学校北側の庭

四、五人の児童等が滑りいたりけり校舎の裏の厚き氷に

板塀にしたたか泥をはねかけてトラックは隣の前に止まりぬ

女等よ政治によろめくことなかれ強く言いましし高山しげり

物云えば唇寒し云はざれば腹のふくるるどちらも道理

八ッ嵐顔に受けつつ荒川の土手急ぐなり母に行くべく

鍬かたげ亡父と歩みし所なり今枯れ芝をふみて侘つ路

六人のはらから集い古里の炬燵に更かす母をかこみて

幼等は漸く寝てしまひたりうから六人語り明かさぬ
by hahanamiko | 2011-02-16 22:56 | 美知思波

昭和三十二年十二月号

三十人一日侘ちて募金せり一万七千六百六十円

お願いしますと頭を下げし吾が前を通り過ぎたり向井先生

着飾りし人はおおむね横を向き乙女等も関心持たざるらしき

里帰り婦人の持てる悲しみに妻なればこそ我等も泣かゆ

再びは帰り来ることもなかりべし恙あらすな中国人の妻

一ヶ月一玉あての綿を買う計画を来年は立てむと思ふ

愛宕町に際立つ白亜三層の校舎ようやくかたち成りたり

人工衛星の話もはらに挑みいる乗せられし犬のあはれも云いて

ようやくに伸びたる髪を輪に止めて順子は少し大人びにけり

鈴なりの柿が西日に光をり櫛形町の農家の庭に
by hahanamiko | 2011-02-11 16:26 | 美知思波

昭和三十二年八月号

裏山の深きに入りて太く長きわらび採るなり茨を分けて

山独活の伸びすぎたるを採る人あり来年は早く来むなど云いて

ひたぶるに子を守りつつ老いゆくか独りなる母に頭をたるる

前途永き独りの生きを憶ふなり若く美しき母の幾たり
by hahanamiko | 2010-08-15 06:36 | 美知思波

母子家庭行楽に参加

山間の棚田にテーラーびびかせて田植えの支度いま盛りなり

変声期の少年が唄ふ上を向いて歩こうに声合わすなり相談員我れ等

念場ケ原開拓農家のかたぶきし納屋の近くに牛うずくまる

六月の風爽やかに吹き渡る氷雨晴れし八ツ高原に

母子家庭行楽の日ぞ寄りそひて母と子が行くつつじの中を
by hahanamiko | 2010-08-14 23:20 | 雑詠

暮らし

昂ぶりし心ようやく静まりぬガラス戸四枚拭き終えしとき

牛車に乗りし農婦が声高に話しつつ帰る夕べの路を

夜更けまで耕耘機の音響かする明日の田植えの支度するらし

今年もまた冷害などと云いあいて七月五日田を植うるなり

刈り干せる麦をば浮かばせ田を川を一つとなして雨降りやまず

養鶏も花弁栽培も病む夫に代われる君のたつきなりけり
by hahanamiko | 2010-08-14 23:10 | 雑詠

皇太子殿下ご巡行

御召列車ホームに入ればどよもして声湧き上がる駅の広場に

身延山祖山学院の旗持ちて黒の法衣の学僧並ぶ

随行のハイヤーオートバイ悉く光りて並ぶ駅の広場に
by hahanamiko | 2010-08-14 23:03 | 雑詠

西山温泉にて

笛吹の水すれずれに黒き烏かすめ飛びたり枯葦の中に

富士川は白く乾きて砂利運ぶトラックが行く広き河原を

残雪に朝の陽照りて山ひだの爽やかに見ゆ西の山脈




重要文化財の欅の門扉あり風雨にさらされて木目浮き上がりたる

裏参道に小さきのぼり数知れず白地に赤き商店の文字



たらちねの母の愛もて世に生きよと講師の言葉まことせつなり



目ばかり出して顔をつつみし女等がよく話すなり袋かけつつ



朝な朝な挿し木の薔薇をのぞき見る赤く小さく芽のふくらむを
by hahanamiko | 2009-10-30 20:41 | 雑詠