昭和三十六年 八月号

朝な朝な夫がハタキをかけるなり十日余りを吾が臥ししかば

胃癌にて死にたる父を思ひつつ胃が重ければ胸さするなり

笹竹の比ひと葉ひと葉に露ありてこぼれては満ちこぼれては満つ

一揃の小さき食器ならべおきて英幸に食わす一粒の飯

幾年か茂りし真菰なくなりて丈高き葦さわぐ川すじ

やがてメダカもハヤも棲むべし町人に清められたるこの川筋に

岱古園の奥庭の池しづかにて岸に咲きたり水萩の花
by hahanamiko | 2012-09-28 19:56 | 美知思波
折々に波はね返す魚あり吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風立つと見し間に

初島ははるかになりて空と海ひと貫にして蒼あおつづく

この島の重要産物のひとつとぞ島をおほえる細き竹原

はるばると椿を見むと来たりしに二月十九日半ば散りたる

砂漠より吹きつのる風強ければモンペを着けて登らむとする

右に見る錦ヶ浦は朝の陽に波かがやきて果てもあらず
by hahanamiko | 2012-09-24 16:55 | 雑詠

昭和三十六年 七月号

風吹けばみかんの花が匂ひくるリフトに乗りて山をゆく時

十二人が二列に並び綱を引く久能山よりみゆる浜辺に

切妻のわらぶき屋根は倉庫とぞ足高き台の上に建てらる




摘果しつつりんごに袋かけてをり肩も痛かりくびも痛かり

目ばかり出して顔をつつみし乙女等がよく話すなり袋かけつつ



朝な朝な挿し木のバラをのぞき見る赤く小さく芽のふくらむを



美が森つつじの間わけわけて児等は蕨をさがしゐるなり

所どころ枯れ枝白く見えてゐき天然記念物のこの大つつじ
by hahanamiko | 2012-03-07 21:30 | 美知思波

昭和三十六年 五月号

相模野の林の中の寮社にて今宵は独り寝るらむ順子



順調に育ちて二十五日目ぞ拳を口にする孫英幸は

湯浴みさせる吾が手の上におとなしく目を開き口をつぐみいるなり

一日の半を孫にかかわりてあわただしかり吾が明け暮れの



吉野山もかくやあるべし等云ひて登り行くなり山のそば路

太き幹の所々に芽を吹きてそこにも咲けり一層の花

目の下にきほひ流るる桂川背音はひびく山の上まで

雪消水富士より流れ下るらし桂川の水白くにごれり

雪しろに濁りて早き桂川溶岩あればしぶき立てつつ

健脚と云はれて先にたちてをりあへぎて登る友を呼びつつ
by hahanamiko | 2012-03-01 21:45 | 美知思波

昭和三十六年 四月号

折々に波におどるは何魚ぞ吾が行く船の右に左に

大島近く波のうねりの高まりぬいささかの風たつと見し間に

頭にのせて物を運べる大島のおみなは老ひて腰まがらずと

髪を包みモンペを着けて登るなり砂漠より来る風の強きに

立ちのぼる煙のうづが白雲の如くただよふ山上の空に

帰りには椿林の中をゆく残りの花を眺めながらに

大町桂月ゆかりの地とぞ赤松の林のなかにわらぶきの家

朝々を庭に来て鳴く鶯が今朝も来てをり樫の梢に
by hahanamiko | 2012-02-28 22:50 | 美知思波

昭和三十五年 七月号

天使像かざられてゐる床前に慰問の品を積み上げにけり



泡立ちつしぶきつ水は流れ下る白き巨岩のつらなる所

トラックに張りたる綱に縋りつつ石ころ路を登る一時間

山小田に水張られゐて苗代の早苗そよげり五月の風に



哺乳びん舌におし出しいつしかに眠り入りたるみちたる顔に

挿しおきし薔薇が小さく芽ぐみしと夫はこごみて吾を呼びをり
by hahanamiko | 2012-02-12 22:47 | 美知思波

昭和三十五年 五月号

三原山にて

一木も一草もなく荒々と溶岩の起伏つづく裾原

楢山節考想ひつつ見てゐたりけり禿山に烏のむれだつさまを

溶岩の起伏をこへてはるかなる波のうねりの見へにけるかな
by hahanamiko | 2012-02-11 13:30 | 美知思波
みはるかすまろき山々若草の色に連なる十国峠

篠山の笹に座りてはるかなる相模の海の光れるを見つ

ヨット三つ動かぬ如し芦ノ湖をめぐらす青き山背景に

銀鼠の泥の池なり沸々と百三十度たぎりあわたつ

硫黄の煙這ひゆくところ樹々の根の白く黄色くあらわなりけり

水な底の岩のまにまに見えてゐる黒きパンツが白き足裏が

缶詰のオレンジジュース沈めたり青くよどめる滝の清水に

汗垂りて人参の草とりて居し妹に並び草むしるなり

作業衣に手甲つけて畑にゆく一人前の農婦のごとく

一畝に三条のみどり並びたり草とりをへし人参ばたけ
by hahanamiko | 2011-11-09 18:52 | 美知思波
十匹の金魚つぎつぎ死にゆきて残りしひとつ鉢に動かず

ふんわりと富士にかかれる白き雲荒れたる国にかかわりもなく

地の惨禍黒くしずめる山梨の空にさやけし十日の月は

おそろしき自然の力知らしめて台風は去りぬ忘れしごとく

台風去りし盆地の朝を旋回するヘリコプター飛行機屋根すれすれに

屋根に這ひて割れし瓦をなほしおり又降り出せる小雨のなかを
by hahanamiko | 2011-10-28 18:50 | 美知思波
一すじの道をつらぬき給いたる喜びの日ぞ吾も侍らん

折々は眼鏡ぬぐいていましたり祝いの席の生更先生

甲斐の文化いよいよたかめさせ給え百歳までもながらへまして

彩なして紅葉燃え立つ地獄谷ロープウェーの窓よりのぞく

石垣作りの苺は花の盛りにて丘の日当たる斜面に続く

さやさやと風吹き亘る朝の山蜜柑は実る頂にまで

空と見し山のかなたは海なりき遥々として白く光れる

羽衣の松を左に美保の海波打ち返す浜を歩めり

海原を薄紅に染めなして日はかたむきぬ蜜柑の山に
by hahanamiko | 2011-10-18 22:33 | 美知思波