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母の詠草


by hahanamiko
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三十七年 九月


檜皮ぶきの屋根なだらかなる曲線を仰ぐ本堂前に

吾ら四人の足音のみの山の中何の鳥ぞも折々に鳴く

渓間にもゆく手にも白き独活の花師よ来年は来給ふならむ

大観の画を想はする風情なり白き煙が谿にひろがる

岩の間を落ちくる水の淵なせるひとところあり鍋釜沈む

人ごとにすがりて登りゆきにけむこの藤づるのつやめけるさま

頂上より裾原にまでゆれ動くギボウシの花今さかりにて







# by hahanamiko | 2017-07-02 20:30 | 美知思波

三十七年 八月


直接に肌を打たるる如くなりビニールの作業衣に雨しきりにて

田植え四日つづけばすでに吾が力限界ならむ夜を眠れず

珍思梅山百合くちなし悉く診療室の前白き花

瓢箪のそだち逞しく雨樋を這ひてとどけり南の屋根に





# by hahanamiko | 2017-07-02 20:14 | 美知思波

三十七年 七月

ー順子大学卒業記念に北海道のたびー

来む春は学びを終わるかたみとぞ北海道を旅ゆく順子

今日ははや津軽の海をゆくならむ順子等の上につつがあらすな

北大に学ぶ従兄も訪ね来よ再びは行くこと難き旅なり

地図の上に夫としるしを付けてゆく娘の旅先を話しながらに

すばらしい函館山の眺望に気分上々と順子の手紙




母子家庭行楽の日ぞよりそひて母と子がゆくつつじのなかを

先永き独りの生きを思はする若く美しき母のいくたり






# by hahanamiko | 2017-07-02 19:59 | 美知思波

三十七年 六月

かかるきびしき生活の中に歌ありて道路工夫の君逝き給う

いと貧しき家にして人情のこまやかなる葬りの席に吾等連なる

盲目なる夫が逝きて残されし半身不随の妻とその子等

この家の長男のぬし山国屋の世話ゆき届き

仏壇に香ゆらぎいて片側にマリヤの御像祀られており

親戚の人々それぞれに不自由の人を労わり力づけをり



母の日を祝ひし手紙智子より届きぬそこばくの金入れありて





# by hahanamiko | 2016-11-03 21:46 | 美知思波

三十七年 五月

桂川にそひし岩山岩の間に紫つつじ今さかりなり

午前九時御苑に人のまばらにて咲き極まれり八重桜花

鯉一尾はねて広がる波紋あり御苑の池の真中どころ



孫を守ることに足りつつ日曜に一日を過ごす夫と吾と

トラックに裾よごされて駅に行くバスハイヤーの動かぬ朝を

私鉄ストの余波受けて列車延着と拡声器ひびく駅構内



卒業記念の写真ようやく届きたり大人びて良く撮れたり智子

紅に芽吹く楓に重なりて満天星の翠色増して見ゆ




# by hahanamiko | 2016-11-03 21:29 | 美知思波