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母の詠草


by hahanamiko
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昭和三十六年 九月号

小淵沢より歩きたる十五分ほこりかむれる草の道なり

酒もジュースも池に沈めて口すすぎ手を洗ひたり滝の清水に

拝殿に吾等並びて紅ますのゆわれ聞くなり農組合長に

置物かと思ひたりけり神殿の前に動かぬ蟇が一匹

胸にズボンに尿されつつ笑ふなり蟇をとらへて抱き来し人が

たしかなる手ごたえありて釣上げし紅鱒が芝の上に跳ねゐる

あらき歯をおそれ乍ら針をとる一尺ほどの肥えし紅鱒

孫二人にあせもを出さぬがそのことが夫と吾れとの仕事のひとつ

和田山のキャンプの一夜明けし時君が夫君の訃報とどきぬ

二十人があわただしくも下山する露のままなる百合を束ねて
by hahanamiko | 2013-01-16 18:34 | 美知思波